2014年3月26日水曜日

コマツカタ タダシ



















時々、茶店でお茶飲みながらの人間ウォッチングすることがある。
『この人の中にはどんな物語があるのだろう』というやつだ。 ひとりで静かにお茶している人、集団でやってきて、あることないこと大声でしゃべっていたり。 聞く気もないけど、勝手に耳に入ってしまう会話の中に、
本心で言ってるのかと、甚だ疑わしい話しもあったり。
押し並べてみれば、人間って思い込みが激しくて勘違いするものだなあって、つくづく思ってしまう。
例に漏れず自分もまた同じなのだが。

ところがボクよりウワテがいた。ヨメである。 それは『こいつ、どういう性格なのだ!』と、思いたくなるくらい頑で、
自説を曲げようとしないから始末に悪い。 これは随分昔のことである。
結婚して暫く言い続けていた人の名前に「コマツカタ タダシ」というのがある。
人の名前をよく知っている彼女のことだから、
きっとその人は存在していて、ボクだけが知らないのだと思っていたが、
ある日、TV画面に現れた俳優を指差して「コマツカタ タダシ」と言ったので、
そこで初めて気づいた。 俳優の名前は「小松方正」だった。性格俳優の彼を、ボクは好きだった。
しかし、ボクはずっと「コマツ ホウセイ」だとばかり思っていたので、
そのことを言うと、彼女は「ホウセイ」なんていう名前はあり得ないと言うのだ。

こういうことである。名前でも何でも、ある一定の法則性に沿って付けられ
「方」と「正」がくっついた名は、名前として法則に反するのだと考えているようだった。
今では、昔のように姓は姓、名は名として法則に基づいた姓名が主流と
された時代と違い、珍しくもないが、当時の彼女の中では法則に反するものは、
一切あり得なかったに違いない。
だから、「タダシ」という一文字が、名前として成立している限りにおいては
「コマツカタ」までが姓なのだと思い込んだのだろう。 これは笑うしかなかった。笑うしかなかったが、
彼女にとっては人生を覆すくらいの大問題であった。それと同時に、ボクの中にもまた、
『自分が勘違いであったのか?』という一抹の不安に駆られた。 「コマツカタ タダシ」事件は、このまま解決することもなく、
また、ボクの中に疑惑を残したまま月日が過ぎた。 その事件の後、再び新たな事件が発生した。 「エキショ コウジ」事件である。
あのイケメン俳優「役所広司」が巷を賑わせていた頃、
ボクは普通に「ヤクショ コウジ」と言っていたが、実はヨメには許せないものがあった。
「役所」は公務員が住むところであり、「ヤクショ」と呼ぶには相応しくない。
だから「エキショ」と呼ぶのだと思い込んだ。分からないけど。 あまり「エキショ」「エキショ」と言うものだから、ボクは友人たちとの会話の中で、
ついうっかり「エキショ コウジ」と言ってしまった。ついうっかりだ。 ボクは今でも勘違いすることがある。だが、ボク以上にヨメは強力である。



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